2015年1月30日金曜日

戦後70年日本の進むべき方向 

論評対象201511日~5日)
横浜国立大学ジャーナリズムスタジオA班 岩下詩帆

新たな年を迎えた。各社は1日から5日にかけて戦後70年という言葉をキーワードにおき、歴史認識と国際関係、そして経済という切り口から2015年の日本の進むべき方向を示した。

 
 まず各社とも歴史認識において隣国の中国や韓国との関係が悪化していることを指摘した。解決策として朝日は1日付社説でグローバル時代である現代において、歴史を世界全体の動きとしてとらえ、自国中心の各国史から解放する考え方である「グローバル・ヒストリー」で過去を振り返ることが必要だと主張した。毎日も3日付社説でグローバル化した時代だからこそ日本は過去と誠実に向き合う責任があるとした。一方その上で中国が歴史認識の対日包囲網をめぐらそうとしているのにも注意を喚起した。読売も、3日付社説で歴史問題を前面に出し日本に厳しい外交姿勢を示す中国と韓国を注視する必要があり、国際社会に誤解を与えないように日本が対応を間違わないようにしなければならないとした。また慰安婦問題にも触れ、事実に反する歴史認識を広げる反日宣伝は看過できないとし、外務省が進める戦力的な対外発信の施策を着実に強化したいと論じた。

各社は安倍首相が新たな談話を出すことについても言及した。朝日は3日付社説で首相が繰り返し「未来志向」を強調するのが気がかりだとし、過去と真剣に向き合ったうえでのことでなければならないと釘を刺した。まずは首相が歴史観を示し、国会で論じることが必要だとも指摘した。毎日は同日付社説で70年談話に必要なのは戦後50年時の村山富市首相談話を戦後日本の揺るぎない基礎と位置づけ、その上で未来を展望する姿勢だとした。一方読売は同日付社説で「未来志向」のメッセージを改めて国際社会に発信しなければならないとした。日本が過去の反省を踏まえつつ、将来に向けて、世界の平和と安定に一層貢献する方針を明確に打ち出すことが重要だと強調した。

朝日と読売は国連についても触れていたが見方は対照的だった。朝日は4日付社説で国際秩序が大きく損なわれた今だからこそ国連の地位向上が欠かせないと指摘し、国際秩序の守護役として国連を見直す機運を高める必要を説いた。一方読売は国連の安保理常任理事国の対立による機能不全が指摘されて久しいことをあげ、組織と制度の改革が急務だと訴えた。

アベノミクスと日本経済という視点では、読売が1日付社説で3本目の矢である成長戦力の強化が急を要するとした。また5日付社説ではアベノミクスが真価を問われる1年だとし、巨額の債務残高を減少に転じ、財政破綻の危機を回避する決意を明確に示すべきだとした。また朝日と毎日はそれぞれ5日付、3日付社説で広がる経済格差について触れ、朝日はさらに政府と日銀は物価上昇にこだわりすぎであり、大規模な金融緩和を終えるのに必要な財政再建の道筋を描くことが肝要だとした。

戦後70年という節目に立たされている私たちは今、どのような方向に舵を取り、進んでくべきか。各社の社説でそれぞれ意見の色合いは出ていたものの将来の日本を見据え考え抜かれたものであり、1年の初めに深く考えさせられた。

仏週刊紙襲撃事件 今後の行方は


仏週刊紙襲撃事件 今後の行方は

(対象記事:115日朝刊~121日朝刊)

横浜国立大学ジャーナリズムスタジオB班井手千夏

 

フランスの政治週刊紙「シャルリー・エブド」のパリ本社が17日に銃撃されてから、約二週間がたった。フランスでは表現の自由と宗教の摩擦を巡る今回の問題について世論調査が行われ、賛成・反対それぞれ約半数で、国内でも意見が二分している。朝日、毎日、読売大手三紙は、連日この事件やそれに関連する出来事について大きく取り上げた。

三紙とも16日に、朝日は19日にも社説を掲載した。朝日は「自由を貫いてこそ」、「境界を超える想像力を」という見出しのもと、表現の自由を行使するには節度と思慮が必要だと指摘した。毎日は「他者を尊重する心も」と表現の自由を考え直すよう主張した。読売は「多様な価値観受容する社会に」と民主主義の基盤は様々な価値観を尊重する精神だと論じた。

次に各紙で特徴的だった点を挙げていく。朝日は国内でも様々な意見があるトルコを取り上げた。16日朝刊11面でトルコのダウトオール首相が「報道の自由は侮辱する自由を意味しない」と風刺画を掲載した出版社を批判したこと、また19日朝刊7面でトルコのジャーナリスト、アスル・アイドゥンタシュバシュ氏が「イスラム教徒は我慢すべきだった」と述べたことを掲載した。毎日は表現の自由が行き過ぎていることへの注意が多かった。また16日朝刊8面で、預言者を描いてはいけない理由などイスラム教の教えについて解説しており評価できる。読売は17日夕刊9面の「週刊KODOMO新聞」のコーナーでこの事件のことを掲載し、分かりやすい言い回しや四コマ漫画で子供にも理解できるようにとの工夫がみられた。19日朝刊7面ではフランスで2007年までテロ犯罪捜査の指揮を執り、また容疑者の一人を10年前に聴取したことのあるジャンルイ・ブリュギエール元判事との会見を載せた。容疑者が獄中で過激派に転じたことや過激派は完全隔離する必要があるなどのコメントを掲載し、他社にはない切り口で興味深かった。

共通点として、このテロを受けて各紙とも表現の自由について論じている。また毎日は16日夕刊8面で世論調査で仏大統領の支持率がアップしたこと、読売は16日朝刊2面で仏大統領のテロへの対応を評価した人が9割近くいたことを載せ、このような大きな出来事がいかに一国のトップの評価につながるかをうかがわせた。しかし、各紙とも日本のテロに対する姿勢についての記事がなく、日本の対応や考えについてもっと詳しく報じてほしい。

2015年1月28日水曜日

戦後70年、今後の展望は

(評論対象:201511日~15日の社説)
横浜国立大学ジャーナリズムスタジオB班 浅井優奈

    年が明け、日本は戦後70年という節目を迎えた。朝日、毎日、読売の大手三紙昨年を振り返りながら現在日本が抱える課題について今後の展望を社説に掲載した。各社共通して取り上げた内容としては、東アジア関係安倍談話、日本経済が挙げられる
・東アジア諸国との関係改善について
    日韓基本条約調印から50年。未だ残る「歴史」が東アジア諸国との関係改善を阻んでいる。朝日は1「自虐や自尊を超えて」との見出しを掲げ、自国中心の歴史認識をやめ、歴史を世界全体の動きとして捉えることが必要だと指摘した。また毎日1「脱・序列思考のすすめ」との見出しで東アジアの力関係の変化を受けとめ、「序列よりも並列」という認識をもとに立ち位置を見つめなおすことが重要だとしている一方読売3歴史問題を前面に出して日本に厳しい外交姿勢を示す中国と韓国を注視する必要があると指摘した特に中国が力による戦後秩序の変更を図ろうとしていることを危惧している。慰安婦問題では、事実に反する歴史認識を広げる反日宣伝に対抗するためにも対外発信力を高めたいと述べ強気な姿勢を見せた。
・安倍談話「未来志向」
    戦後70年にあたり、安倍首相が8月に新たな談話を出す。過去村山政権や小泉政権時代に植民地支配と侵略により多くの国に多大の損害と苦痛を与えたとして、反省の意を表明した。今回の談話について日は4日、読売は3日に首相が述べる「未来志向」を大切にし、過去の反省を踏まえつつ、将来に向けて世界の平和と安定に一層貢献する方針を明確に示すことが大切であると論じた加えて朝日は3、未来志向を述べるときは過去と真剣に向き合っていることが前提なので、まずは首相が歴史観を示し国会で論じることが不可欠であると指摘した。
脱デフレ目指す日本経済
    朝日は5「暮らしを守る脱デフレに」と題して、低所得者が増加している現在、物価上昇にこだわりすぎず中小企業の生産性を高める作業が大切であると強調したまた読売は5「アベノミクスの真価問われる」との見出しで、アベノミクスの基本戦略を評価したうえで、好循環経済への流れが目詰まりを起こしていることが問題であると指摘した。企業は人材や設備への投資を積極的に行う攻めの経営に転じ、成長戦略を確実に実行すべきだとした

 次に、各社特徴あった記事を挙げる。毎日は3日、フランスの経済学者トマ・ピケティ氏著作の21世紀の資本」が話題になった「ピケティ現象」を取り上げ、日本経済について言及した。広がる格差問題を指摘し、ピケティが提唱する富裕税は非現実的だとしても、これをきっかけにきちんと向き合い考えることが大切であると主張したこれは他社にはない切り口で興味深かった。また朝日、読売それぞれ4日「国際法支配の確立を目指せ」、「秩序維持へ国際協力が急務だ」との見出しを掲げ、国際秩序が損なわれていることを言及している。朝日は、自国の安保理常任理事国入りにとらわれず、もっと広い視野から国連の地位向上を呼びかけるべきだと訴えた。一方で読売は、国連の組織と制度の改革が急務であるとし、日本の常任理事国入りを目指す姿勢を支持した。このことから各社の論調の違いが見て取れた。

2015年1月22日木曜日

迫る衆院選 国民に考える材料を



(対象記事:12月4日朝刊~12月10日朝刊)
横浜国立大学ジャーナリズムスタジオ1年A班 阪口奈央

 12月14日に投開票が行われる衆院選に向け、各社は連日社説にて国民に今回の選挙に投票するうえで考えるべき点を提示している。

 原発問題について、読売は8日社説で「安易な原発ゼロは無責任だ」という見出しの下、原発問題に関する各党の公約が割れているということに言及したうえで、再稼働を着実に進めたいという考えを示している。自民党が再稼働実現に着実に取り組む姿勢を示したことを、深刻な電力事情を考慮した判断であると評価している。一方で、民主党が責任ある避難計画がなければ再稼働すべきでないと訴えていることに対し、再稼働のハードルをいたずらにあげることにはならないかと批判している。

 安全保障問題について、朝日は4日社説で「停戦前は無理筋だ」と題し、中東ホルムズ海峡での自衛隊による停戦前の機雷除去が可能になるかどうかについて触れている。安倍首相と公明党の解釈にズレが出ていることに注目した。さらに、安倍首相の想定自体現実味が乏しいとの見方があり、選挙中だからこそ首相は有権者に向けて「中東での掃海は無理だ」とはっきり語ってはどうかと述べている。また、毎日は9日社説で「沖縄の基地 民意から目をそらすな」とし、衆院選で沖縄米軍基地移設問題についての議論が盛り上がっていないことを指摘した。2社は異なる方向からではあるが、安保問題についても考えるべき要素があることをきちんと伝えている社説だと感じた。

 また、3社は10日施行された特定秘密保護法について同日社説を載せている。朝日は見出しを「『不特定』の危うさ」とし、「特定秘密」は行政の恣意的判断の余地を残しており、いま改めて問われるべきだとした。毎日は「息苦しい社会にするな」と題し、権力から独立して国民の「知る権利」を守るべきであり、さらに報道機関の責任と役割が一層問われる場面だと自覚したいとしている。一方、読売は「他国との情報共有不可欠だ」とし、秘密法の施行は他国との信頼関係を築くうえで重要であると強調した。また、国民の懸念が根強いことにも触れ、安倍首相や関係閣僚の国民への説明を求めると同時に国会の責任にも言及している。

 選挙戦も終盤に差し掛かり、各社それぞれの視点から国民に判断材料を提供している。政党は自らの政党に有利なことしか話さない今、新聞各社が批判的な目を持ち国民に考えるべき点を提示していくことは重要である。今後投開票が行われた後も、原発問題や安全保障など問題は山積している。各社選挙後の動きもしっかり報道してもらいたい。

はやぶさ2 期待を胸に宇宙へ

 
(対象記事:12月3日付夕刊~12月10日付朝刊)
横浜国立大学ジャーナリズムスタジオ1年A班 阪口奈央

 12月3日午後、はやぶさ2の打ち上げが成功した。日本の技術を世界に知らしめたともいえるこのニュースを朝日、毎日、読売3紙は解説を交えながら伝えた。

 毎日は12月4日朝刊の社説で「宇宙の旅を応援したい」と題し、国民の理解や支援があってこそ一見役に立たない科学調査は成り立つとした。読売は12月6日朝刊の社説で「生命の起源なる壮大な旅だ」とし、今回の開発で育った人材や技術を今後に生かすのが重要であることに言及した。さらに、日本が小惑星以外は宇宙研究で後れをとっていることや予算が頭打ちであること、探査機開発の効率化という点にも触れた。

 また、3社はそれぞれ12月4日朝刊1面のコラムでそれぞれの視点からはやぶさ2の打ち上げ成功を扱った。朝日は「天声人語」で「ハヤブサ」の鳥の特徴を挙げたうえで、様々なところで「はやぶさ」という名前がつかわれているということを取り上げた。毎日は「余禄」で探査の対象である小惑星に注目し、「仮面ライダー」「トトロ」といったような名前の小惑星があることを紹介した。読売は「編集手帳」で天皇皇后、万葉集の和歌を引用したうえで、はやぶさ2が帰還する2020年の日本はどうなっているのか、今回の衆院選でどのように日本が変わるのかということを言及した。3社とも全く違う見方でコラムを載せており、興味深かった。

 3社は共通して、一般の人がはやぶさ2の打ち上げを見守る姿がわかる写真を掲載しており、今回の打ち上げが一般の人からも関心を集めていることを示した。朝日は6日朝刊17面で宇宙航空研究開発機構(JAXA)シニアフェローの川口淳一郎氏のインタビューを掲載した。また、毎日は4日朝刊27面でスカイツリー、はやぶさが向かった小惑星イトカワ、はやぶさ2が今回向かう小惑星1999JU3の大きさを写真で比較した。そして6日朝刊31面で一般からの寄附で開発のカメラが活躍している記事を載せた。読売は、4日朝刊6面でそれぞれの部品に貢献した日本企業を紹介、39面で病死したJAXAの助教のエピソードを載せている。ここでも上記のコラムのように違った視点からはやぶさ2打ち上げを取り上げおり、焦点の当て方の違いがみられてよかった。

 日本の誇りともいえるはやぶさ2打ち上げ成功のニュースを各社独自の目線で伝えている。2020年、はやぶさ2が帰還したときも今回のように各社独自の色を出していってほしい。

与党圧勝 民意は反映されたか



 (論評対象:20141214日付朝刊~17日付朝刊)
執筆者 ジャーナリズムスタジオ1年A班 山本舜也


第二次安倍内閣の解散に伴い、12月14日に衆議院総選挙が行われた。自民党は政権奪取した前回の選挙と議席が変わらず、公明党は微増した結果、自公は全体の3分の2以上を占める326議席獲得した。野党では海江田万里代表が落選した民主党を始め、維新の会なども存在感を示せず、与党とは対照的にふがいない結果となった。その一方で共産党が13議席伸ばす躍進をみせた。


朝日、毎日、読売の大手3紙は選挙当日からその後3日にかけて大型社説を掲載するなど、大々的に報道した。14日は3紙ともに争点を見直し、有権者に投票を促す内容であった。市民の目線に立っていて評価できる内容であった。

しかし新聞社の努力もむなしく投票率は過去最低の52.66%だった。朝日、毎日ともに15日付の社説で、安倍政権が大多数の人々に信任を受けたわけではないと釘を刺し、自民党の政略的なやり方に批判の色を示した。また毎日は自民党がやや勢力を落としたことにも触れていて、鋭い視点であった。一方読売は15日付社説で、与党の支持は「『野党よりまし』という消極的な面が強い」としながら、有権者は「当面は、首相に安定した体制で国政運営を託そうという判断をしたと述べ、他2紙とは正反対の立場をとった。

また民主党の不振について朝日、毎日は16日付、読売は17日付の社説で触れている。各紙とも海江田代表に代わる新代表について言及する中、読売は「党内で決まったことに従う文化が欠けている」と民主党の体質を指摘し、抜本的な改革を求めた。野党批判に偏りがちな読売であるが、この指摘は的を射ていた。

その他の特徴として、3紙共に世間の関心を捉えようとする工夫がみられた。朝日は14日付朝刊4面で女性候補者数に焦点を当てた記事や、16日付朝刊39面の若者に注目した記事を掲載し、今後の課題を掘り下げていた。毎日は16日付朝刊で政治団体「支持政党なし」が北海道の比例ブロックで10万票以上を得たと報じていて、今回の総選挙の結果を皮肉るユニークな記事だった。読売は14日付の朝刊6面の経済について1面分割かれていた記事を始め、アベノミクスを推していこうという意思が読み取れた。さらには各紙ともにカラーで写真や似顔絵、表や図を用いて選挙結果を解説していたので、読者のスムーズな理解に繋がっていた。



解散総選挙は日本の将来を左右する重大なイベントであり、世間の大きな関心事でもある。情報量が膨大で複雑な問題を抱えているが、各社読者に分かり易く伝える工夫が見て取れた。また、与党信任に関して意見が分かれたが、これも新聞というメディアが健全な証拠だろう。来年はTPP(環太平洋経済連携協定)や集団的自衛権、原発再稼働、沖縄基地問題など国論を二分する問題が山積している。安倍政権が継続すると決まった今、各紙は先を見据えて十分な論争を重ね、政権を注視する役を果たしてほしい。

2015年1月20日火曜日

2014衆院選報道 各紙の特色に注目


(論評対象:20141214日付朝刊~17日付朝刊)

横浜国大ジャーナリズムスタジオB班 足立冬馬

 

 20141214日に投開票が行われた第47回衆院選は、自民党と公明党から成る与党が議員定数の3分の2を超える326議席を獲得し、勝利した。朝日、毎日、読売の大手3紙は連日社説を掲載し、多くの紙面を割いてこれを報道した。

 まずは、選挙翌日である15日の各紙朝刊1面の見出しに注目したい。朝日は「自公大勝 3分の2維持」、読売は「自公圧勝 320超」となっており、ともに与党圧勝の報道をしている一方で、毎日は「自民横ばい 公明堅調」としており、他の2紙とニュアンスの異なる見出しを付けた。この見出しに、各社の選挙結果に対する評価の違いが出ていた。

次に各紙の特徴的な記事を挙げたい。朝日は16日付朝刊5面で、当選者の各政策に対する立ち位置をカラーの図で示しており、一目で理解しやすい紙面となっていた。毎日は16日付朝刊10,11面で選挙結果の分析を掲載しており、投票率と自民党の得票率の推移や野党が一本化した選挙区の結果など細かいデータまで載せられていた。また10面には、映画監督としてすべてを取り仕切る安倍首相と、各党首のコメントが描かれた風刺画が掲載された。今回の選挙結果が一つの絵の中に凝縮して表現されたもので、インパクトがあり理解もしやすかった。また、読売15日付夕刊10,11面の、一際大きく描かれた安倍首相が日本列島をつかんでいる図は、今回の選挙における自民一強を印象付けるものであり目を引いた。このように各紙特集面に非常に工夫を凝らしており、興味をそそられた。

 毎日は16日付朝刊社説で民主党の敗北に言及し、若手を代表に選び新たなリーダーを育てていくのも党の再生の一手段なのでは、との提言をした。これは他社には無い視点の提言でありよかった。

 朝日は17日付朝刊3面で、安倍首相が街頭演説した各地で集団的自衛権にどの程度言及したかを示す表を掲載した。安倍首相が演説の半数以上で安全保障について触れていないことを指摘しており、読者に対して印象付けるための工夫が見られた。また同日付朝刊37面では、小選挙区の当選者がどれほどの有権者から1票を託されたのかを「託され度」と名付けて算出したことに触れた。他社には無い、関心を引き付ける試みであり評価できる。

 読売は16日付朝刊の特集面にて、第28回(1958年)から今回までの衆院選の主要な争点と自民党の得票率、そして当時の首相をまとめた図を掲載した。歴史の中で自民党が長く政権を担ってきたことを示す、非常にインパクトの大きい紙面であった。

各紙ともに情報量が膨大な中で、効果的に図やイラストを用いてわかりやすく示す工夫があり、非常によかった。一方で、経済問題は複雑で理解しにくいものが多いので、選挙の争点となった主要な経済問題については各紙詳しい解説や専門用語の説明が欲しいところだった。

2015年1月8日木曜日

衆院選関連社説の比較 投票を促す内容が目立つ


対象記事:11月27日朝刊~12月3日朝刊
筆者:横浜国立大学ジャーナリズムスタジオA班、1年 松本朱音

 衆議院の解散総選挙を12月14日に控え、各紙は連日重要な争点を取り上げている。その中で有権者に向けて投票へ行くように進める論調も目立ち始めた。

朝日は29日付分で、自民党がテレビ局に対して公平な報道を求める要望書を提出したことに関して、それを批判する内容の社説を出した。今後は、各党が局に対して要望書を出している状況を有権者に公表してはどうかと提案した。なお、この件について社説を出していたのは朝日だけである。30日付分には、「立憲主義には逆らえない」との見出しをつけた。内容は安倍政権が憲法解釈を閣議決定で済ませたこと、個人よりも国家に重きを置く条文に改めていることを批判するものであった。12月1日付社説では、国民の信が問われなかった、安保政策が今度の衆院選で有権者からの審判を受け得ることを強調した。2日付分では、選挙を放棄し、意思を示さなければ次の政権への「白紙委任」と受け止められかねないことを指摘。「どうせ何も変わらないという冷笑の先に確かな将来はない。」と有権者に投票へ行くことを促す内容だった。3日付分では、増税の先送りによる社会保障への影響を防ぐための政策を示すよう、自民、公明、民主のさらなる論戦を期待していた。概して、朝日は他の二紙に比べて安全保障問題に関した内容が目立った。また、憲法解釈を巡る安倍政権の動きは立憲主義に反しているという姿勢であった。

毎日は、28日付朝刊の社説で、「将来世代の衰弱を防げ」との見出しのもと、増税が不可避であることを自民党、公明党、民主党間で再確認すべきと述べた。29日付分では、来年2015年が戦後70年になることから、歴史認識と外交についての社説を載せた。その中で、「党派を超えて国際社会を納得させる合意を目指してほしい。」と注文した。12月1日付分では、政策を実現できずに批判を浴びることへの恐れから、各党の公約が曖昧になっていることを批判した。そのうえで不明確な点は選挙戦を通じて詰めていく必要があると指摘した。2日付分では、「国民が主導権を握ろう」との力強い見出しのもと、経済だけでなく安倍政権が総合的に問われるべきだと強調した。また、よい選択肢がないからと選挙権を放棄しては、政治の主導権を握れないと有権者に対して訴えかけた。3日付分では、社会保障や国債の返済の実現には経済成長が必要であるが、各党の公約はその点についての具体性がかけていることを指摘した。末尾には、各党に対して「選挙戦を通じて、選び甲斐のある選択肢を示してほしい」と注文をつけた。毎日は、公約の曖昧さを指摘しながら、投票へ行くことを促すなど、有権者の目線に立った内容がより強調されていて評価できた。

読売は、28日付分で日本の経済政策を「アベノミクス」に託すかどうかが最大の争点で
あると強調した。一方、日本経済が安定成長をするために必要なことを各党は具体的に示すべきであると注文した。29日付分には、「人口減止める活性化策を示せ」との見出しをつけた。地方創生を看板政策に掲げる安倍政権は各種交付金の新設などを公約に含めたが、その内容に具体性にかけると批判した。30日付分では、安保政策に関して、「行使容認の意義を堂々と語れ」との社説を載せた。その中で、憲法9条の解釈変更に問題はないと社の姿勢を表し、民主党がそれを「立憲主義に反する」と主張したことを、「独善的」だと批判した。この社の論調は、朝日のものと真逆であることがわかる。12月1日付分では、増税先送りに際して「財政再建への目配り」が必要であると指摘した。2日付分では、「誤りなき日本の未来定めたい」との題のもと、有権者に政党や候補者を見極める力が必要であることを強調した。3日付分では、「論戦の説得力を吟味したい」と、これまでの各党の主張を比較した。また、経済や安保政策に関する具体策の提示を求めた。社の論調としては、与党擁護、民主批判が目立った。

取り上げる内容や、論調に差はあるものの、三紙とも選挙が近づくにつれて有権者の立場に立った主張をしていた。今後も、有権者の判断材料となる論点の提示を期待する。